棚卸って何?~経営者が知っておきたい会計用語

事業を経営されている方であれば、「棚卸資産」や「実地棚卸」という言葉を聞いたことをあると思います。

「棚卸」が会計上どのような意味を持つかについて、本日はお話したいと思います。

棚卸とは

棚卸(たなおろし)とは、在庫を数えることを言います。

棚卸はその方法によって、「実地棚卸」と「帳簿棚卸」に分かれます。

  • 実地棚卸:店舗や倉庫に行って現場にある実際の在庫を数える棚卸方法
  • 帳簿棚卸:仕入れた商品の数量と販売された商品の数量から在庫を数える棚卸方法

一方で、勘定科目としての「棚卸資産」は商品、製品、仕掛品、原材料、貯蔵品等をいいます。

棚卸資産を有している会社(個人事業主)は、棚卸を実施しなければなりません。棚卸を実施しないと適正な決算が組めず、税務申告も正しく行えないためです。

棚卸資産と売上原価の関係

棚卸は決算書でいうところの「売上原価」の数値を固めるために必要な作業です。

売上原価=①期首棚卸資産額+②当期仕入高-➂期末棚卸資産額

で計算されるのですが、会計上は、①期首棚卸資産額(期首からあった商品)や②当期仕入高(当期に仕入れた商品)を期中にすべて費用処理しています。つまり、「①期首からあった商品と②当期に仕入れた商品が全て売れた」と仮定して期中の費用を計算していることになります。

これに対して、➂期末棚卸資産額は「期首からあった商品と当期に仕入れた商品のうち、期末に売れずに残っている商品」を意味します。この金額を確定させるために、期末に売れ残っている商品=倉庫や店舗に残っている商品を実際に数える作業が必要になる、というわけです。

 

棚卸は中小企業にとってなぜ重要なのか

棚卸は、在庫を持つ企業にとっては等しく重要な作業なのですが、特に中小企業にとっては重要度が高いといえます。

なぜならば、中小企業は大企業に比べて事業規模が小さいので、仕入を毎月安定して行わずに、(ロットを大きくして仕入単価を抑えるために)一定程度まとめて仕入れるケースが多いためです。

仕入をまとめて行うと、仕入があった月だけ費用が大きくなります。反対に、仕入がなかった月は費用が小さくなり利益がでます。試算表を見ると、仕入が多い月に利益が減少し、仕入が少ない月に利益が増加するという形になります。つまり、中小企業の期中の試算表では、いくら儲かっているのかという実態が見えにくく、棚卸を実施して初めて業績がわかるケースが多いといえます。

この傾向が特に強い業種が、季節的な売上・仕入・在庫の変動要因が大きい業種である建設業や衣料品販売業、衣料品製造業などです。建設業は土木工事などの公共系の案件だと地公体の予算消化の関係から9月や3月に売上が集中する傾向があります。衣料品関係は、秋冬物の単価が高く稼ぎ時になるため、秋冬物を製造する会社では夏場に売上が増加し、販売業では冬場に売上が増加する傾向にあります。必然的に売上が増加する前に仕入と在庫が増加するため、年間を通してみると月ごとに利益の変動が大きくなります。

このような企業では、期末の棚卸を厳格に行い、在庫金額を確定させて初めてトータルで利益が出ているか否かがわかることも少なくありません。

私も多くの中小企業の試算表や決算書を見てきましたが、期中試算表は赤字基調で推移しているが期末の棚卸後に初めて黒字になる会社や、その逆に期中は黒字を計上しているが期末の棚卸後に一転赤字となる会社もたくさんありました。

自社の事業が上手くいっているのかどうか把握できていない状況では、新たな投資や資金調達の必要性が適時に判断できず、対応が後手に回ってしまい、取り返しのつかない失敗につながりかねません。

在庫に重要性が認められる場合には、月次ベースでも簡易的な帳簿棚卸を実施することが望まれます。

余談~色々な棚卸

最後に余談となりますが、私が今までに見た棚卸を一部ご紹介します。

■小売業のS社

食品スーパーを営んでいるS社は多数の店舗を構えています。在庫の多いビジネスであり、万引きも相応に発生する事業であるため、棚卸作業は非常に重要です。期末の全店一斉棚卸作業はお祭り作業であり、22時の閉店後に各店舗徹夜で棚卸作業を行います。自社従業員だけではリソースに限界があるため、外部の棚卸専門業者を呼んで棚卸を手伝ってもらっていました。POSシステムの中で単品情報を管理しているため、棚卸にあたっては、ハンディ機器でバーコードを読み取り数量を入力する、という方法で棚卸を実施していました。

■鋳物製造業のF社

F社は鉄を溶かして金型に流し込み、それを冷やし固めて自動車の部品を作っている会社でした。F社の主要な棚卸資産は、原材料である鉄材と、製造工程で加工した後の鉄製品です。煤(すす)に体を汚しながら、工場内の箱詰めされた鉄製品や、製造ラインに乗っている仕掛中の部品、倉庫にある原材料の鉄材をひとつずつ数え、リストに記載していく方法で棚卸を実施していました。

■レストラン業のT社

レストランを営んでいるT社の主要な在庫は食材です。食材の多くは食品庫や業務用の大型冷凍庫に保存してあります。業務用の食料品や飲料品はロットが大きいので、数える場合にも少し工夫が必要なものがあります。例えば、ステーキ用牛肉はkg単位のブロックで仕入れるため、重さを量ってそれに仕入時のグラム単価を乗じて金額を計算します。酒類でも業務用のサイズなので1本数万円のボトルもあり、残量を目分量で測って金額を計算するといった方法で棚卸を実施していました。

上記は一例にすぎませんが、業種・業態によって色々な棚卸があり興味深いです。どの会社も棚卸作業を重要な決算作業の一つ(あるいは従業員の不正を牽制するための重要な作業の一つ)として位置付けており、全社一丸となって取り組んでいました。