中小企業にとってのキャッシュフロー分析(1)~概要

今回から数回にわたって中小企業にとってのキャッシュフロー分析について説明します。

初回である今回は、中小企業にとってキャッシュフロー分析がなぜ必要かについて考えてみます。

そもそもキャッシュフロー分析って何のこと?

キャッシュフローの定義を改めて確認してみましょう。

  • キャッシュフロー=キャッシュ(資金)のフロー(動き)=現金預金がどのように増えたか(減ったか)

これがキャッシュフローの定義です。ポイントは「どのように」の点です。

資金の増えた(減った)事実は、B/Sの現金預金を2期並べて、その差額を計算すればわかりますが、それは「結果」であって、資金が「どのように」増えたのか(減ったのか)はわかりません。

P/Lを見ると売上高、売上原価、販管費…当期純利益の計算過程が示されていますが、当期純利益はB/S現金預金の差額とは一致しないため、P/Lが資金の増減の理由を説明していないのは明らかです。

そこで、「資金がどのように増えたか(減ったか)を分析しよう」というのが、キャッシュフロー分析です。

中小企業にとってのキャッシュフロー分析の必要性とレベル感

 

中小企業:「経営者」が「本業で資金が獲得できているかを理解するため」に必要

中小企業の多くは事業が成長過程にあり、また事業規模が小さいため外部環境の受けやすく資金繰りが不安定になりやすい特徴があります。

そのため、「本業で資金が回っているか」、「借入を返済するための資金が確保できそうか」を経営者としては常に把握しておくためにキャッシュフロー分析が必要になります。

したがって、経営者が必要と考えるレベル(比較的粗めのレベルでも目的は達成できる)での分析で足ります。

大企業:「株主・投資家」が「財務諸表分析を行うため」に必要

一方で大企業では事業基盤が確立しており、資金繰りも安定しています。そのため前段で記載したような経営者にとっての情報提供という意味合いは薄くなります。

大企業では株主や投資家に対する情報開示の一環として、会計基準に則って「キャッシュフロー計算書」を作成・開示しなければなりません。これはP/L上の利益とB/Sの資金の増減の関係性を明らかにすることで、P/LとB/Sをベースとした財務情報を補足することを目的としています。「キャッシュフロー計算書」を作成するためには、複雑で細かいレベルでのキャッシュフロー分析を実施しなければなりません。

キャッシュフロー分析をするとわかること

過去記事(黒字倒産!?利益とキャッシュフローの違い)でも触れましたが、P/Lの利益は資金の増加とは一致しません。

P/Lの利益は「会計上の利益」であり、会計のルールの中で計算した数字であることから、「実際に手元資金が増えた(減った)事実」、「経営者の儲かっている(儲かっていない)感覚」と乖離することがあります。

一方でキャッシュフローは実際の資金の動きにフォーカスするため、その数字は客観的です。

キャッシュフロー分析をすると、「なぜ利益が出たのに資金が増えなかったのか」「なぜ利益が出なかったのに資金が増えたのか」がわかります。言い換えると、「P/L利益」と「経営者の経営者の儲かっている(儲かっていない)感覚」とのズレの理由がわかります。

これがわかると、「来年の利益は〇〇円を計画しているから、来年の資金は△△円増えるだろう」という予測情報を得ることができます。

この情報は、将来の営業方針、将来の投資方針、資金調達方針など様々な意思決定をする上でなくてはならない情報だといえます。