キャッシュフロー分岐点売上高の重要性
前回記事で損益分岐点売上高について紹介しましたが、「資金繰り」がポイントとなる中小企業にとって、より大切な「キャッシュフロー分岐点売上高」について紹介します。
(おさらい)利益とキャッシュフローの違い
利益とキャッシュフローの違いは過去記事で何度も触れてきましたが、再度おさらいしておきましょう。
- 利益:会計上の儲け。「収益ー費用 」で算出される。
- キャッシュフロー:現金の収支。「収入ー支出」で算出される。
- 利益は会計上のルールで計算されたものであり、現金収支であるキャッシュフローと異なる。
- 利益が黒字であっても、キャッシュフローが赤字である場合もあり、この場合は黒字倒産の危険あり
中小企業は大企業とは違って資金力が十分にないケースがあり、資金繰りが悪化しやすいという特徴があります。利益が出ているかどうかよりも、資金繰りが回るかどうかの方がより重視されるため、キャッシュフローを重視した経営をすることが求められます。
キャッシュフロー分岐点売上高とは
前回記事で紹介した損益分岐点売上高とは、利益がゼロとなる理論上の売上高であり、会計上の利益を黒字にするためにクリアしなければならない売上高です。
一方でキャッシュフロー分岐点売上高とは、仕入代金や経費の支払、借入金の返済を含めて資金収支がゼロとなる売上高を言います。つまり、「資金繰りを保ち事業を継続していくために最低限必要な売上高」と言い換えることができます。
キャッシュフロー分岐点売上高の求め方(算式)
- キャッシュフロー分岐点売上高
=(固定支出+借入金返済額)÷限界利益率
=(固定費-減価償却費+借入金返済額)÷限界利益率
※固定費、限界利益については前回記事を参照してください。
損益分岐点売上高との考え方の違い
キャッシュフロー分岐点売上高の算式は、損益分岐点売上高の算式をベースに考えます。
損益分岐点売上高の算出基礎となる固定費・変動費はP/L科目の売上原価・販管費・営業外費用(支払利息)の数値を使用しましたが、これらの「費用」は「会計上の費用」であるため発生主義(※)で算定されています。
※発生主義については、過去記事を参照してください。
そのため、発生主義から現金主義(キャッシュフロー)に組み替えるような調整を施してあげれば良いのです。つまり、以下の2点の調整を施せば、費用⇒支出に変えることができます。
- 費用(固定費・変動費)から「支出」を伴わないものを除いてあげる。
⇒①減価償却費を固定費から差し引く。 - 費用ではない経常的な支出を加えてあげる。
⇒②固定支出として、借入金返済額を加えてあげる。
損益分岐点売上高の算式にこれら2点の調整を加えた式が
- キャッシュフロー分岐点売上高=(固定費-減価償却費+借入金返済額)÷限界利益率
という式になることがお分かりいただけたかと思います。
キャッシュフロー分岐点売上高の算出
前回記事で使用した例でキャッシュフロー分岐点売上高を算出してみましょう。
上記例において、借入金の年間返済額が18,000であったという条件を加えて算出してみます。
1.損益分岐点売上高の算出
前回記事を参考に損益分岐点売上高を算出します。
- 固定費:人件費+賃借料+減価償却費+通信費+水道光熱費+旅費交通費+消耗品費+広告宣伝費+支払利息=120,000
- 変動費:材料費+クレジットカード手数料=72,000
- 限界利益:売上高200,000-変動費72,000=128,000
- 限界利益率:限界利益128,000÷売上高200,000=64.0%
- 損益分岐点売上高=固定費120,000÷限界利益率64.0%=187,500
2.減価償却費と借入金返済額を調整する
減価償却費:10,000、借入金返済額18,000を損益分岐点売上高の算出に調整してキャッシュフロー分岐点売上高を算出します。
- キャッシュフロー分岐点売上高
=(固定費120,000-減価償却費10,000+借入金返済18,000)÷限界利益率64.0%
=200,000
キャッシュフロー分岐点売上高の重要性
損益分岐点売上高187,500に対してキャッシュフロー分岐点売上高200,000と算出されました。
もしこの会社が、キャッシュフロー分岐点売上高を知らないまま、黒字を確保するために翌期の売上目標を190,000として経営するとどうなるでしょうか。お分かりの通り、損益は黒字になりますが、キャッシュフローは赤字となり、資金繰りに困ることになるでしょう。
資金繰りを意識した経営を進める上で、自社のキャッシュフロー分岐点売上高を把握しておくことは重要です。