会計方針の選択が利益に与える影響
会計方針という言葉を聞いたことがあるでしょうか。特に創業したばかりの会社(個人事業者)では、会計方針をどう選択するかによって利益が変わってきます。
会計方針とは何か。本日はその概要を解説します。
会計方針とは
会計方針とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう(過年度遡及会計基準第4項(1))
これが会計基準における会計方針の定義です。この定義ではイメージが掴みにくいと思いますので、少し捕捉します。
会計方針というのは、「複数の会計処理方法が認められている」場合において、「その中から採用した会計処理方法」を言います。
例えば、「備品500,000円を普通預金振込で購入した」場合の会計処理(仕訳)は「(借方)備品500,000 / (貸方)普通預金500,000」となります。
この場合、どんな会社であっても同じ会計処理となります。処理方法が1つしか認められていないからです。
一方で、「期首に取得した備品500,000円を期末に減価償却した」場合の会計処理(仕訳)は、
- A社では「(借方)減価償却費200,000 / (貸方)備品200,000」
- B社では「(借方)減価償却費100,000 / (貸方)備品100,000」
のように金額が異なる場合があります。固定資産(備品)の減価償却方法をA社は「定率法」、B社は「定額法」で行っており、それぞれの減価償却方法が会計上認められているからです。
選択できる会計方針の代表例
選択できる会計方針の代表例として以下の項目があります。
- 固定資産の減価償却方法
- 棚卸資産の評価方法
- 有価証券の時価評価方法
- 引当金の計上基準
このうち、中小企業の決算に対する影響が特に大きいのは、固定資産の減価償却方法と棚卸資産の評価方法でしょう。
固定資産の減価償却方法については、「定額法にするか定率法にするか」という選択になります。
短期的には、利益を取るかCFを取るか(後述します)、長期的には費用を平準化したいかどうか、といった観点で決定する必要があります。
棚卸資産の評価方法については、「個別法、先入先出法、最終仕入原価法、移動平均法、売価還元法、低価法の中でどれを選択するか」という問題になります(各評価方法の説明はここでは省略します)。
棚卸資産の評価方法については、「実務上可能か」という側面を考慮して、自社の棚卸資産の性質に応じて決定する必要があります。
例えば、多種類の商品を扱う小売業であれば、個別法を採用するのは実務的に不可能であり、売価還元法を採用するのが現実的です。
また、在庫の仕入・払出管理がシステム化できないのであれば、移動平均法を採用するのが実務的ではなく、最終仕入原価法しか採らないかもしれません。
会計方針それぞれについて、損益への影響や、実務への影響を勘案しながら決定する必要があります。
会計方針は一度決めたら変更できない?
会計方針によって費用になる金額が変わるなら、業績が良い時には費用が大きくなる方法で、業績が悪い時には費用が小さくなる方法にその都度変更すればいいのでは?
このように思われる方もいるかもしれませんが、企業会計のルールの中で、むやみに変更することは禁止されています。
企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。(企業会計原則 一般原則 五)
この規定は、企業会計原則という、企業会計の基本ルールの一つとして定められているものです。当然、利益を調整したいから、といった理由で会計方針を変更することはできません。
起業時に特に留意すべきこと
起業時には、まっさらな状態から、それぞれの会計方針を選択することになります。
短期的には「CFを取るか、利益を取るか」の選択になりますが、スタートアップの局面にある企業においては、資金繰りの安定が最優先事項であるため、会計上の利益よりも税金面(CF)を重視して、早期に費用(損金)に落ちる会計方針を採用することをオススメします。