起業した経営者にとって必要な会計知識(後編)
起業した経営者にとって必要な会計知識は何か。
前回は、起業した経営者にとって必要な会計知識をお伝えする前提として、会計の種類を説明しました。
今回は、本題である、「起業した経営者が知っておくべき会計知識が何か」について、私の考えをお伝えします。
経営者の役割は「決めること」
経営者の役割とは何でしょうか。
私は、事業の方針や戦略を「決めること=意思決定」が経営者の最大の役割であると考えます。
- 誰に何を売るかを決める
- 売り方を決める
- 仕入先や外注先を決める
- 資金の使い方を決める
- 必要な資金をどのように調達するかを決める
- 誰を採用するかを決める
- 業務を回すための仕組みを決める
etc…
経営者は事業に対する全ての責任を持っています。
だから、事業の方針や戦略の決定は経営者が決めるのです。
(事業規模が大きくなれば部分的には下位者に任せることになることもあります。)
会社の現状を理解し、将来を見据えて、「決めること」が経営者の役割です。
財務会計~決算書を作れなくても語れるように~
決算書を作れなくてもよい
決算書を作成するためには、日々の取引を会計のルールに従って記帳しなければなりません。
そのためには、簿記の知識はもちろんのこと、様々な会計基準の知識が必要となります。
税務申告書の作成についても同様に、法人税や消費税等の税法と関連規則の理解が必要となります。
このような多岐にわたる専門的な知識を身に付け、日々アップデートしていくには、大変な時間と労力を要します。
経営者は「決めること」が仕事です。
決算書を作るための細かい規則や作り方までを必ずしも知っている必要はありません。
決算書の作成は、会計や税務の知識がある従業員に任せ、必要に応じて会計・税務の専門家(税理士や公認会計士)を利用しましょう。
むしろ必要なのは自社の決算を語れること
これは単に「売上がいくらで、売上原価がいくらで、利益がいくらです」という意味ではありません。
「当社の営業利益率は業界平均よりも低いが、その理由は同業他社に比べて設備が新しく減価償却費やリース料といった固定費割合が高いためだ。固定費割合が高いので売上が伸びれば自然と採算は良くなる傾向にある。人件費については…(略)」
あなたは自社の決算書を見て儲かっている理由を客観的(数値的)に説明できるでしょうか。
もし赤字であるならば、その原因がどこにあり、あといくらの売上があれば(売上の増加に伴う費用の増加も踏まえて)黒字になるかを説明できるでしょうか。
ぜひ「自社の決算を語れる」経営者になってください。
決算書の見方がわかる経営者になるために
自社の決算を語れるということは決算書の見方がわかるということです。
そのためには、具体的に次の知識が必要です。
- 会計の用語の意味:減価償却など
- 会計の考え方:発生主義・現金主義
起業した経営者のための情報提供サイトである本ブログでは、会計の考え方や会計用語の解説を随時発信していく予定です。
管理会計~経営判断に必要な情報を活用できるように~
管理会計なくして正しい経営判断なし
管理会計とは意思決定(経営判断)をするために必要な情報を得るための会計です。
管理会計の領域は幅広いですが、例えば身近なところですと、「現時点で今年度の売上・利益はいくらになりそうか」を把握することも管理会計の1つです。
今年度の利益がいくら出るかわからないのに、従業員の賞与を出したり、新たな設備購入を行うことはとてもリスキーです。
管理会計なくして正しい経営判断なし、とは決して言い過ぎではないと思います。
経営判断に必要な情報を知り、基礎となる考え方を理解する
上述の「現時点で今年度の売上・利益はいくらになりそうか」を数値として把握するためには、以下のようなプロセスが必要となります。
- 月次試算表を作る
- 過年度の決算書や月次試算表から、費用を固定費・変動費に分解して売上に対する費用の発生度合いを理解する
- 前年度を基礎にして、単価や数量の変動を踏まえて売上の予測を立てる
- 売上の予測をもとに費用の予測を立てる
- 売上の予測と費用の予測から利益の予測を立てる
ここでも経営者に必要なのは、これらの作業を自ら行うことではありません。
固定費・変動費、損益分岐点といった考え方の趣旨を理解する。そして、いくら売上があれば赤字になるのか、いくらの売上があればいくらの利益が出るのか、を自分でイメージできるようになることです。
日々の経営判断のために必要な情報(例えば、年度の売上利益予測の情報や資金繰りの情報)は何かを知ること。それを活用するために、その情報の基礎となる考え方を理解すること。
これらが経営者に必要な会計知識であると私は考えます。
まとめ
- 高度な簿記の知識、会計基準や税務の実務的な規則を経営者が知っている必要はない
- 財務会計においては、決算書を読めるだけの会計の考え方や会計用語を正しく理解することが必要
- 管理会計においては、経営判断のために必要な情報を知り、その情報を活用するための考え方を理解することが必要