起業した経営者にとって必要な会計知識(前編)
会社経営者や個人事業主(以下、経営者)にとって会計の知識は必要でしょうか。
「経営者は事業を前に進めていくことだけに注力すべきだ。会計は事務作業だから簿記のわかる従業員に任せておけばいい」
このように考える経営者が多いのではないでしょうか。
この考え方に私は反対しませんし、実際にその通りだと思います。
しかし、ここで考えていただきたいのですが、
“会計=簿記=帳簿を作成して決算を組むこと”
という枠で会計を捉えていないでしょうか。
ひと口に「会計」といっても、
- 日々の商取引を帳簿に記録するための会計
- 税金を適切に計算するための会計
- 会社全体の財政状態や経営成績を正確に計算するための会計
- 投資を行う際に将来投資資金が回収できるか否かを判断するための会計
など様々な局面で会計を利用する場面が登場します。
経営者といっても大企業の経営者から、今まさしく起業したばかりの経営者まで幅広い経営者がいます。
当ブログは起業して間もない経営者を対象としています。
起業した経営者にとって少なくとも必要な会計知識は何だろうか。
これをテーマに前編/後編の2回にわたってお話したいと思います。
前編である今回は、起業した経営者にとって必要な会計知識をお伝えする前提として、会計の種類を簡単に整理します。
起業した経営者が知っておくべき会計の種類
大きくは財務会計と管理会計に分けられます。
財務会計
外部の利害関係者(株主・債権者等)に対し、企業の経営成績及び財政状態に関する情報を提供することを目的とした会計です。
財務会計は、さらに以下の3つに分けられます。
(A)会社法会計
貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を作成することを目的としていますが、B/SとP/Lを作成する際のルールは、会社法のルールに従います。
(B)金融商品取引法会計
貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)を作成することを目的としていますが、B/SとP/Lを作成する際のルールは、金融商品取引法のルールに従います。
(C)税務会計
税金申告を行うことを目的としています。例えば法人税であれば、法人税法のルールに基づき、会社法会計に従って作成した損益計算書の利益をスタートにして、税金額を計算します。税金額を計算する書類のことを税務申告書と呼びます。
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非上場会社であれば、(A)会社法会計と(C)税務会計が対象となります。
個人事業主であれば、(C)税務会計のみが対象となります。
ちなみに上場会社であれば、証券取引所に(B)金融商品取引法会計に基づく決算書を提出しなければならないため、(A)(B)(C)の全てが対象となります。
以上のように、事業体によって利用すべき財務会計が異なります。
それぞれの財務会計ごとに適用されるルールが異なるため、目的に即した決算書を正しく作成するためには、簿記の知識や会計基準(決算書を作成する際のルール)の理解が必要となります。
管理会計
内部の利害関係者(経営者や管理者等)に対し、経営管理・業績評価・意思決定等に役立つ情報を提供することを目的としています。
管理会計の範囲は広く、例えば以下のようなケースで用いられます。
- 部門別の利益の計算…どの部門が儲かっているかを把握して投資を強化するビジネスを決める
- 商品を企画開発する際の原価・コストの計算…どのくらい作ってどのくらい売れたときにどのくらい儲かるのかを把握して、商品開発のGOサインを出すか否かを決める
- 工場を新設する場合の投資回収期間の計算…設備投資が何年で回収できるかの把握し、設備投資をするかどうかを決める
- 資金繰りの予測…現在の資金状況および将来のキャッシュフロー予測から資金繰りを予測し、足りない資金の調達方針や余った資金の運用方針を決める
etc・・・
つまり、管理会計は経営者であるあなたが活用したい情報を得るための会計といえます。
したがって財務会計のように必ず利用しなければならないわけではありません。しかし、販売戦略を立てる、事業や製品の採算を測る、投資を行う、借り入れを行う等の重要な意思決定を適切に行うためには非常に重要です。
まとめ
- 会計には大きく分けて「財務会計」と「管理会計」がある。
- 財務会計は、外部に対して提出する決算書や税務申告書を作成するための会計
- 管理会計は、意思決定をするために経営者等が必要な情報を得るための会計
後編である次回は、起業した経営者が知っておくべき会計知識が何かの本題に入ります。