中小企業の業種別決算書分析~小売業(2)

本日は「小売業」の第2回です。

機械器具小売業、その他の小売業、無店舗小売業について見ていきます。

小売業の分類

日本標準産業分類(平成25年10月改定)によると、小売業は以下の6業種(中分類)に分類されます。

  • 各種商品小売業…主に百貨店・総合スーパー
  • 織物・衣服・身の回り品小売業…衣料品を販売している小売業
  • 飲食料品小売業…野菜、果物、食肉、鮮魚、酒、パン、米などの小売業のほか、コンビニも含む
  • 機械器具小売業…主に自動車、中古車、自転車などの小売業
  • その他の小売業…家具、医薬品、化粧品、ガソリンスタンド、書籍、スポーツ用品、ホームセンターなど、上記の分類に当てはまらない小売業全般が含まれる。
  • 無店舗小売業…通信販売、自動販売機など店舗を持たない小売業

今回は青字で記載した3業種についてB/S、P/L、財務指標を見ていきます。

※分析に使用しているデータの説明は下記記事を参考にしてください。

過去記事:中小企業の業種別決算書分析~全体

機械器具小売業

「機械器具小売業」の決算書の特徴

決算書を見ると以下のような特徴が挙げられます(主に色を付けた部分です)。

  • B/S:棚卸資産回転期間が1.1ヵ月
  • B/S:その他流動資産が多額に計上されている
  • P/L:粗利率は24.0%

機械器具小売業に含まれている中小企業の多くは自動車関係と思われます。

自動車販売は、1件あたりの取引金額が大きい(数十万円から数百万円)であり、必然的に商談から販売までに長い時間を要します。これが、棚卸資産回転期間が1.1ヵ月であるという数値に表れています。前回記事で取り上げた各種商品小売業が0.8ヵ月、飲食料品小売業が0.5ヵ月であるのと比べて回転期間が長くなっているのはそのためです。

B/Sのもう一つの特徴が「その他流動資産」が1社あたり44百万円と多額に計上されている点です。自動車販売ではリースや割賦での販売が行われているため、これらの未収入金が計上されているものと考えられます。

P/L面では粗利率24.0%と決して高くはない数値となっています。しかしながら、売上高人件費率が10.4%と他の小売業の業種と比較して低く抑えられているため、営業利益以下は黒字が確保できています。これも、高価な商品を取り扱っているという機械器具小売業の特徴が表れている点です。

最近では、自動車販売業社は、車検や整備点検など車両販売以外の付随サービスに力を入れています。これは、定期的な収入を得られること、粗利率が高いことから収益力の強化を図ることを目的としています。また定期的に顧客との接触が図られるため営業に繋げやすいという副次的な効果もあります。

在庫の単価が高いため、滞留在庫(不良在庫)が増加すると財務・資金繰りが急激に悪化するリスクを有しています。したがって在庫管理が財務管理上のポイントといえます。

以上が「機械器具小売業」の財務構造の特徴です。

その他の小売業

「その他の小売業」の決算書の特徴

決算書を見ると以下のような特徴が挙げられます(主に色を付けた部分です)。

  • B/S:棚卸資産回転期間が1.3ヶ月
  • B/S:投資その他の資産が大きい(金額としても、B/Sに占める割合としても)

「その他の小売業」には家具、医薬品、化粧品、ガソリンスタンド、書籍、スポーツ用品、ホームセンターとなどが含まれており、他の小売業に区分されない雑多な小売業が含まれているため、全体でみると各業態での特色が薄まってしまいますが、その中でも特徴的なのは投資その他の資産の大きさです。

ドラッグストア、ガソリンスタンド、書店等に共通するのは、(地方の中小チェーンで特に)吸収・合併による中小企業の統廃合が進んでいるという点です。こういった「企業結合取引」が行われると、B/S上は「投資その他の資産」に買収した子会社や関連会社の投資有価証券が計上されるため、B/Sの「投資その他の資産」が他の小売業の業種と比較して大きくなっているのだと考えます。

無店舗小売業

 

「無店舗小売業」の決算書の特徴

決算書を見ると以下のような特徴が挙げられます(色を付けた部分です)。

  • B/S:棚卸資産回転期間が1.6ヶ月と長い
  • P/L:粗利率は39.5%と高い
  • P/L:販売手数料が5.2%と大きい
  • P/L:広告宣伝費が3.3%と大きい

無店舗小売業に含まれるメインは通信販売業です。通信販売業は営業店舗を持たず、メディアをチャネルとして消費者に販売するスタイルです。現在の主流は当然インターネット販売でしょう。

商品力がキモなので、特定の消費者をターゲットとして、特定のニッチな商品を販売するため粗利率が高くなる特徴があります。また、高い粗利率の一方で商品の回転期間が長くなる傾向は衣料品販売業と似ています。

他の小売業と異なるP/L面での最大の特徴は、販売手数料や広告宣伝費といった「販売費」の割合が突出して高いことです。インターネット販売では楽天等でネット店舗を出店した場合には相応の販売マージンをしはらわなければなりませんし、Websiteへの集客のためのサイト構築費用や、ネット広告の発信費用など広告宣伝費も投資として必要となるという特徴が、P/Lから読み取れますね。

以上が「無店舗小売業」の財務構造の特徴です。

小売業まとめ

以上で、前回と今回にかけて小売業の6業種を見てきましたが、広く「小売業」といっても「何の小売業か」によってB/SやP/Lが異なることがわかっていただけたかと思います。

次回からは卸売業について見ていきたいと思います。