銀行が気にする指標~債務償還年数(後編)
前回記事で債務償還年数の概要についてお伝えしました。
今回は「債務償還年数」という指標を銀行がどのように使用するかについてご紹介します。
前提として知っておくべき「債務者区分」
金融機関(以下、銀行と記載します)が融資先の債務償還年数をどのように見るか、ということを考える前提として、「債務者区分」という概念を知っておく必要があります。
債務者区分とは、どのように融資の実行可否を判断する際や、資産の自己査定(≒融資先の信用力を評価する作業)を行う際に、融資先をランク分けする作業を実施します。この作業によって融資先ごとに「債務者区分」や「信用格付」というものが付与されます。
「債務者区分」は、銀行の監督官庁である金融庁が定めた区分です。「信用格付」は、債務者区分よりももっと細かい銀行独自の区分です。
以下に、「金融検査マニュアル(金融庁)」に定められている債務者区分の定義を記載します。
- 正常先:業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者
- 要注意:業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者
- 破綻懸念先:現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者
- 実質破綻先:深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者
- 破綻先:法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者
債務者区分と融資方針の一般的な関係
- 正常先であれば問題のない債務者なので銀行も「積極的に融資可能」
- 要注意先であれば何らかの問題があるので「要検討」
- 破綻懸念先以下であれば経営破綻に陥ることが見込まれる債務者なので「融資不可能」
という債務者区分に応じた融資方針となるのが一般的です。
ただし、破綻懸念先以下であっても、手形割引(参考記事)による融資については、手形の振出先が健全な企業である場合に限り、融資してくれる場合があります。
債務者区分と債務償還年数の関係
債務者区分の概要を理解した上で、債務者区分と債務償還年数の関係について見ていきましょう。
上述した金融庁による債務者区分の定義を見て疑問に思われた方もいるかもしれませんが、この定義、抽象的な表現となっています。例えば、正常先の定義である”財務内容に特段の問題がない”といった記述について、何を”問題ない”とするのかについては銀行側で定義する必要があるということです。
銀行にとっての関心事は、「融資したお金が返ってくるかどうか」、という点であることは明らかです。そのため、問題ない先であるかどうかを判断するにあたっては、決算書の黒字/赤字、自己資本の金額なども当然評価しますが、「返済能力」を意味する「債務償還年数」を最も重視します。
正常先の目安値は10年以内~15年以内
そこで、各銀行では、債務者区分の判定ルールを定め、その中で、債務者区分に対応する債務償還年数の目安値を定めています。
銀行、信用金庫によって基準が甘かったり厳しかったりするのですが、一般的には以下をイメージしてください(幅を持たせているのは基準が甘い銀行と厳しい銀行の違いと考えてください)
- 正常先:10年以内~15年以内
- 要注意先:10年以上20年以内~15年以上30年以内
- 破綻懸念先:20年超~30年超
<注意点>
- 債務者区分を判定するうえで、債務償還年数を最も重視するのですが、これだけで決めるわけではなく、決算書に基づく財務分析結果(売上や利益の大きさ、自己資本の大きさ、売上債権や在庫の回転期間など)や、既存借入金の返済状況等を勘案し総合的に判断します。
- 上記目安値は一般業種であり、不動産賃貸業、ホテル・旅館業、病院業といった設備集約型の事業については上記年数よりも長い年数(+5年~10年程度)で判断することが一般的です。
- 銀行は、債務償還年数を算定する際の償還原資の算出に当たって、単純に決算書の「経常利益+減価償却費」とするわけではなく、
現在の債務償還年数が要注意先・破綻懸念先水準であっても…
銀行が融資を検討する場合には、融資を実行した後の状態(借入金が増加した後の状態)で債務償還年数を算出し、償還能力を判断することになります。
「自社の債務償還年数を算出したら30年になりました。融資を受けるのは不可能でしょうか」という場合もあるでしょう。しかし、銀行が債務償還年数を検討する場合には、以下のような点も加味して実質的な償還能力を判断します。
- 過去の実績は参考であり、将来獲得可能な「償還原資」を債務償還年数の算定に使用する
- これから実行する融資によって利益やキャッシュフローが改善する分も織り込む
- いざとなったら返済に充当可能と考えられる、削減可能な役員報酬や経費を勘案する
つまり、将来計画を織り込んだ返済能力(債務償還年数)を考慮するということです。お金を返すのは将来のキャッシュフローからなので、当然といえば当然です。
したがって、現在の債務償還年数が要注意先・破綻懸念先水準であっても、将来の返済能力が十分である(将来的に債務償還年数が正常先水準になる)ことを合理的に説明し、納得してもらえれば融資を受けることは可能です。
そのため、銀行に融資を依頼する場合には、合理的に策定された「事業計画」が必須となってくるというわけです。