銀行が気にする指標~債務償還年数(前編)
債務償還年数という言葉を知っていますか?
銀行が企業への融資を検討する際に必ずチェックするポイントの一つです。
本日は債務償還年数の概要について紹介します。
債務償還年数とは
債務償還年数とは、「融資先が借入金を完済できる年数」を言います。
一般的には馴染みのない言葉ですが、金融機関(以下、銀行と記載します)が融資の実行可否を判断する際や、資産の自己査定(≒融資先の信用力を評価する作業)を行う際に使用します。銀行員なら必ず知っているでしょう。
銀行が融資判断をする際には、決算書の黒字/赤字や債務超過の有無、業歴の長さ、過去の取引実績などを考慮しますが、最も重視する指標が「債務償還年数」といっても過言ではありません。なぜならば、銀行にとって最も重要なのは「貸したお金が返ってくるか」だからです。
過去記事でも触れたように、「P/Lの利益」と「キャッシュフロー」は必ずしも一致しませんし、仮に粉飾していた場合には、利益は黒字であってもキャッシュフローは赤字である可能性さえ考えられます。
貸出金を返済するに足る営業キャッシュフローが十分に見込まれるか否か。これが融資判断をする際の重要ポイントになるということです。
債務償還年数は以下の算式で計算します。
債務償還年数=要償還債務÷償還原資
例えば要償還債務が40百万円、償還原資が5百万円/年であれば、債務償還年数は40百万円÷5百万円=8.0年となります。
以下、要償還債務と償還原資それぞれについて見ていきましょう。
要償還債務とは
要償還債務は書いて字の如く、「返済(償還)しなければならない借入金(債務)」を言います。
例えば自動車部品の製造業を営むA社について、銀行から計50百万円の借入金があったとしましょう。50百万円全部が銀行に返済しなければならない借入金なのでしょうか。
通常、多くの事業においては、以下のサイクルを通して資金を循環させます。
①設備に投資&商品を仕入れることによって資金を投下し
↓
②在庫として保有し
↓
➂在庫を販売し
↓
④販売した代金を回収する
ここでで、①から④に至るまでの間、資金が在庫や売掛金の状態で眠る状況が生じるため、ビジネスを回していくためには経常的に一定の運転資金を持っておく必要があります。これを正常運転資金といいます。
正常運転資金は事業が上手くいっている企業であっても必要な資金であるため、不良な在庫や不良な債権に投入されている場合を除き、銀行にとっては継続的に融資しても問題はない債権だといえます。
したがって、要償還債務を計算するときには、一般的に以下の算式によって求めます。
要償還債務=短期借入金+長期借入金-正常運転資金(※)
(※)正常運転資金=棚卸資産+売上債権-仕入債務
借入金の合計額から正常運転資金を除くということは、要償還債務≒設備投資資金というイメージでとりあえずOKです。
償還原資は「営業キャッシュフロー」と考えればOK
償還原資も書いて字の如く、「返済(償還)の元になるキャッシュフロー(原資)」を言います。
事業を拡大・成功させるために借入を実施するので、当然、借入金の返済原資となるべきは、通常の営業活動で稼いだキャッシュフローということになります。
営業キャッシュフローの考え方は前回までの記事のとおりですが、一般的に以下の算式によって求めます。
償還原資=経常利益+減価償却費
※銀行によって償還原資の算出方法は異なります。「当期利益+減価償却費±非経常損益」という計算方法もよく見かけます。
債務償還年数の算出上は、上記算式によって算出した前期、前々期のキャッシュフローを2期平均した値を使用するのが一般的です。単年で算定すると、その年度特有の事象(たまたま大型の売上があり利益が大きかった、等)の影響を受けるためです。
償還年数は将来あと何年で完済できるか、という将来の予測に使用する情報であるため、過去の平均的な実績を根拠に将来の「経常的なキャッシュフロー」を算出する、というわけです。
今回のまとめ
ここまでで債務償還年数の算出方法について簡単に触れました。
債務償還年数を噛み砕いて言うと、「現在の営業キャッシュフローを前提として、あと何年で設備投資借入を返せるか」を数値にした指標と思ってもらえれば良いと思います。
「債務償還年数は何年ならいいのか?」については次回の記事とします。