証書貸付のメリット・デメリット
前回記事(銀行借入の4形態~証書貸付・手形貸付・手形割引・当座貸越の違い)を受けて、今回から4回にかけて各借入形態の特徴を説明します。初回である今回は証書貸付です。
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銀行借入の4形態~証書貸付・手形貸付・手形割引・当座貸越の違い
証書貸付とは(前回のおさらい)
証書貸付は、銀行と「金銭消費貸借契約書」という契約書(証書)を取り交わすことにより、貸出を行う方法です。
事業者や消費者が金融機関から借入を行う際の最も一般的な借入方法です。証書貸付は貸出条件を詳細に設定することができるため、貸出期間が長期(1年超)にわたる取引に用いられます。
証書貸付のメリット
長期に資金を借り入れることができる
証書貸付の最大のメリットは、1年以上の長期資金を借りることができる点にあります。これは、借りる側にとっては、設備投資資金のように長期スパンで投資回収を考えなければならない場合に対応できるメリットがあります。貸す側(銀行)にとっては、安定した金利収入を得られるというメリットに繋がります。
貸出条件をアレンジできる
長期の貸出取引では、将来の環境変化に対応して金利や返済方法の取扱を個別具体的に決めておきたいという、貸す側(銀行)と借りる側のニーズがあります。証書貸付は、契約書の中で、貸出金利を市場金利連動としたり、繰上返済の取扱いを定めたりすることができます。
身近な例としては、住宅を購入する際の「住宅ローン」が挙げられます。住宅ローンは貸出期間が10年を超えることが通常であり、貸出金利についても契約書上は変動金利条件としたうえで、「当初10年は〇%で固定」というような特約を付しています。このような取り扱いができるのが証書貸付のメリットの一つです。
証書貸付のデメリット
手続が煩雑なため時間がかかる
証書貸付は他の借入形態に比べて、申し込みから融資実行までに時間がかかります。これは例えば以下の理由によります。
- 貸出条件を決める時間や貸出条件銀行と協議する時間が追加でかかる
- 設備投資資金などの長期で金額の大きい融資になると、融資担当者が必要資金額の検証を実施したり、融資金の回収シミュレーションを実施する時間がかかる
- 上記のそれらの内容を銀行の中で稟議書に起こして承認をもらう時間も長くかかる
金利負担が長期になる
これはデメリットというか当然の話なのですが、長期の貸出になるため、借り入れる側からすると、長期にわたって金利を支払わなければならなくなります。
必要以上に資金を借りてしまうと、業績が良くなって手元資金に余裕ができても、貸出期間が終わるまで高い金利で借り続けなければならなくなります。
どんなケースで証書貸付を利用すべきか
証書貸付のメリット・デメリットを前提とすると、設備投資の資金を調達する際に利用するのが適しています。
証書貸付による長期運転資金の調達
銀行によっては長期運転資金という名目で証書貸付により3年から5年程度の資金を出す場合もありますが、注意が必要です。
原則的には、事業が成長すれば必要運転資金は増え、事業が横ばいで進めば必要運転資金は変わりません。このような中で、運転資金を分割返済型の証書貸付で借りると、いつか運転資金見合いの借入金が足りなくなり、追加で借入しなければならなくなります。それが常態化してくると、借入金がどんどん複雑になっていき、融資手数料や無駄な利息支払が増えていきます。
証書貸付による長期運転資金の調達は、運転資金を長期に借りられるという点で否定されるものではありません。ただし、無駄なコストをかけないためにも、運転資金は必要な分だけを手形貸付などの短期借入で調達することをお勧めします。