中小企業の典型的な粉飾決算

中小企業の決算書を数多く見てきた中で、明らかに粉飾決算(決算操作)をしているだろうなという会社が多数ありました。

粉飾決算を実施している会社はバレないと思っているかもしれませんが、見る人が見れば怪しいかどうかはすぐにわかります。

今回と次回の2回に分けて、中小企業の典型的な粉飾決算の種類と見分け方を紹介します。

今回は中小企業の典型的な粉飾決算の種類についてです。

そもそも粉飾決算が行われる理由は?

中小企業にとって、粉飾決算を行う動機はどこにあるのでしょうか。大部分の中小企業にとって、利益よりも「税金をいくら収める必要があるか」という点の方が関心が高いかもしれません。

しかし、以下のような企業にとっては利益の重要性が高まります。

  • 銀行から借入をしたい企業にとっては、融資を受けるために銀行に良い決算を見せたい
  • 株式上場を目指している会社にとっては、目標利益を達成する必要がある

このような動機から、利益を水増しするための粉飾決算が行われるのです。

典型的な粉飾決算には2つの手法がある

中小企業が行う粉飾決算の大部分(感覚的には8割以上)は以下の2つに集約されます。

  • 売上(売掛金)の架空計上
  • 在庫の架空計上

利益を水増しするためには、「収益を大きく見せる」か「費用を小さく見せるか」の2択ですが、売上の架空計上は前者、在庫の架空計上は後者にそれぞれ該当します。

これらの2つの手法について、以下でそれぞれ見ていきます。

売上(売掛金)の架空計上

売上(売掛金)の架空計上とは、「実際は発生していない売上(売掛金)を、発生したことにする」方法です。

やり方は簡単です。以下の仕訳を会計ソフトに入力するだけです。

「(借方)売掛金 xx円 / (貸方)売上 xx円」

これだけで、売上と利益を簡単に膨らませることができてしまいます。

なぜ売上(売掛金)の架空計上が粉飾に用いられるか

まず、現金の入金を必要としないため、帳簿だけで粉飾ができてしまう点にあります。

次に、売掛金は「商品を販売し代金を請求したが、まだ未入金の状態」を意味するため、売上に対応する入金事実は必要ありません。したがって、誰かに「この売掛金は何ですか?」と問われたときに「先月売り上げたんだけどまだ入金がなくて…」という言い訳ができるのです。

また、売上や売掛金という科目は企業活動の主要科目であるため金額が大きく、多少の粉飾を実施しても見つかりにくい(と経営者が思う)という点も理由の一つです。

在庫の架空計上

在庫の架空計上とは、「実際の棚卸在庫よりも、多額の在庫を帳簿上だけ計上する」方法です。

どんな企業でも期末日に在庫の棚卸を実施します。在庫の数量を数えて在庫単価を乗じて在庫金額を固めますが、この際に在庫数量を過大に記録したり、在庫単価を高い金額にすることで実際の在庫金額よりも帳簿の在庫金額を大きくします。酷いケースでは、実地棚卸を実施せず、帳簿の在庫金額だけ記録する場合もあります。

これにより、在庫金額を不正に大きく計上した分だけ売上原価が小さくなり、費用を小さくすることができます。

参考記事:棚卸って何?~経営者が知っておきたい会計用語

なぜ在庫の架空計上が粉飾に用いられるか

まず、現金の入出金を必要としないため、帳簿だけで粉飾ができてしまう点にあります。

次に、業態にもよりますが、在庫は多数の商品で構成されているため、特定の商品の数量や金額を増やしても、一見わかりにくいという点です。仮に100種類の在庫を抱えており、そのうち5種類の在庫を10%ずつ水増ししたとしても異常は見つかりにくいでしょう。

また、在庫科目(商品、製品、仕掛品等)は企業活動の主要科目であるため金額が大きく、売上(売掛金)の架空計上と同じく、多少の粉飾を実施しても見つかりにくい(と経営者が思う)という点も理由の一つです。

粉飾はばれる?

これらの粉飾を実施しても、見る人が見れば違和感を感じますし、異常性にも気づくことができます。

会計士や銀行がこれらの粉飾が行われているかを確かめるためにどのような見方をしているか、については次回とします。