黒字倒産!?利益とキャッシュフローの違い
「黒字倒産」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
黒字倒産とは、利益は出ている(黒字)が、借入返済や手形支払のための資金がなく、倒産してしまうことを言います。
本日は、利益とキャッシュフローは何が違うのか、中小企業の経営者が気をつけるべきことは何か、について紹介します。
利益とキャッシュフローの違い
利益は「会計上」の儲け
「利益=収益ー費用 」で算出されます。
収益も費用も会計基準にしたがって、損益計算書の中で計算されるものです。
損益計算書の収益には主に売上が、
損益計算書の費用には仕入代や人件費、賃借料、減価償却費などが計上されています。
ここで、収益と費用は「発生主義」にて計上されているということがポイントです。
発生主義というのは、「現金の受領・支払の有無に関わらず、権利義務の発生や、モノやサービスの消費時点で処理しましょう」という考え方です。
(対になる考え方は「現金主義」となりますが、これについては後述します。)
例えば、損益計算書に計上される売上高は、商品を販売した時点で計上されます。1年間に1,000万円の商品を販売したら1,000万円の売上が計上されます。そのうち代金を受け取ったのが800万円で、残り200万円は代金の回収が翌年度であったとしても、です。
費用も同様です。事務所や倉庫などを賃借している場合、一般的に前月に賃借料を支払いますが、会計上の費用が計上されるのは賃借料を支払った翌月(実際の賃借期間)となります。
これが発生主義による会計上の「利益」の計算方法です。
キャッシュフローは「現金」の収支
「キャッシュフロー=収入ー支出」で算出されます。
収入も支出も、実際の現金(預金も含みますが現金と記載します。以下同様)の受領事実、支払事実に基づいて計算します。
ここでは詳述しませんが、会計上の利益は、企業が様々な会計処理の方法を選択することができます。そのため同じ取引が発生したとしても企業によって利益の計算方法が異なることがあります。
これに対してキャッシュフローは現金の受領・支払の事実に対して計算されるため、誰が計算しても結果は一つしかありません。
キャッシュフローは「事実を表す」というのはそのためです。
利益とキャッシュフローが相違する代表的なケース
次に、利益とキャッシュフローが相違する代表的なケースを見ていきます。
売上と売掛金の回収
先の例で説明しましたが、売上と売掛金の例が最も一般的です。
会計上は、
- 当期に販売した分
が売上という収益に計上されます。小売業であれば、現金で販売した分もクレジットカード払いという売掛取引で販売した分も、商品券やギフトカードで販売した分も全てが収益になります。
対してキャッシュフロー上は、
- 当期に販売し、当期に代金を現金回収した分と
- 前期に販売したが、当期に代金を現金回収した分
が「収入」として計算されます。
小売業であれば、クレジットカード払いで顧客に商品を販売した場合には、当月は売掛金となり、その売掛金が翌月にカード会社から入金されます。
期末月にクレジットカード払いで販売した分は翌期の初月に入金されるため、当期のキャッシュフローには含まれません。
逆に、前期の期末月にクレジットカード払いで販売した分は当期の初月に回収されているため、当期のキャッシュフローに含まれます。
商品を販売した時点で計算するのが売上、売掛金を回収した時点で計算するのがキャッシュフローとなります。
仕入と買掛金の支払い
仕入と買掛金の関係も同様です。
会計上は
- 商品を仕入れた分
が当期仕入高という費用に計上されます。
対してキャッシュフロー上は
- 当期に商品を仕入れ、当期に代金を現金支払した分と
- 前期に商品を仕入れたが、当期に代金を現金支払した分
が「支出」として計算されます。
仕入を行った時点で計算するのが費用、買掛金を支払った時点で計算するのがキャッシュフローとなります。
固定資産の購入と減価償却
例えば2,000万円で建物を建設した場合を想定してください。
まず、建設時に2,000万円の支払いがありますが、この時点では以下のようになります。
- 会計上は費用は発生しない …建物を使用していないため
- キャッシュフロー上は2,000万円の「支出」 …2,000万円の支払があるため
その後、20年間にわたって建物を使用していくとします。この場合の考え方は以下の通りです。
- 会計上は年間100万円の減価償却という「費用」が発生する …建物を使用しているため
- キャッシュフロー上は何も発生しない …建物の使用により収入や支出は発生しないため
固定資産の購入の場合には、「費用」と「キャッシュフロー」で長期にわたって違いが発生することがわかります。
キャッシュフローを意識した経営
黒字倒産はなぜ発生するのか?
利益とキャッシュフローの違いがわかると「黒字倒産」が発生する仕組みがわかります。
先の例に関連付けていえば、商品をたくさん出荷すれば会計上の売上が計上され、「利益」を計上することができますが、
対価としての現金をタイムリーに回収できなければ、手元の資金はなくなり、銀行の借入返済ができなくなります。
利益が出ていても、会社が潰れたら何の意味もありません。
資金的体力の乏しい中小企業にとっては、事業を安定して継続させるためにキャッシュフローを意識した経営を行う必要があります。
キャッシュフローを増やすには利益を増やすことが第一
キャッシュフローの必要性はわかるが、どうすればキャッシュフローを増やすことができるのか。
まず第1には利益を増やすことです。上記例で見たように、利益とキャッシュフローの違いは、現金の回収と支払のタイミングによる違いに起因するものであり、長期間で見れば利益とキャッシュフローは等しくなります。
短期的にキャッシュフローを改善するためには
- 固定資産の取得にあたってリースを利用する
- 売掛金回収サイトや買掛金支払サイトを見直す
- ファクタリングや手形割引を利用して売掛金を早期に回収する
など、色々な方法が考えられますが、「利益を増やすこと」がキャッシュフローを増やすための基本です。
成長企業が陥るキャッシュ不足の理由
売上・利益が右肩上がりに増えている成長企業であってもキャッシュフローが足りずに資金繰りに窮することがあります。
それは以下のような理由によります。
- 売上は増えるが売掛金の回収サイトが長く、増加した売上代金の入金が遅い
- 売上の増加に備えて、商品仕入や製造を増やしており、先行して仕入代金の支払いが増加している
- 営業所や倉庫等の設備投資により、費用(減価償却費)よりも先行して現金の支出が増える
事業が拡大している時にも、キャッシュフローの状況には常に気をつけておかなければなりません。
資金繰りをタイムリーに把握することが重要
ある日急に資金不足が発覚したり、(最悪の場合)黒字倒産にならないためにも、日頃から資金繰りに注意しておく必要があります。
資金繰りをタイムリーに把握するためには、将来のキャッシュフローを予測した「資金繰り表」を作成することをお勧めします。
資金繰り表を作成・活用する際のポイントは、以下の通りです。
- 過去の実績をベースに、将来の変動を考慮して予測を立てること
- 資金繰り予測は最低でも月次、できれば日次で作ること
- 収入は多少保守的に見積もること
- 支出は細大漏らさず見積もること(そのためには過去実績の把握が重要)
- 資金繰り予測に対する実績を記録していき、予測の精度を継続的に高めていくこと
- 資金不足が見込まれる場合には、早めに資金調達を検討すること
中小企業が事業を安定して継続させるためには、資金繰り表の利用は必須と言っても過言ではありません。
まとめ
- 利益は発生主義、キャッシュフローは現金主義
- 利益とキャッシュフローはしばしば乖離する
- 中小企業にとって資金繰り表の作成は必須