金融機関ごとの貸出利率の違いを比較

以前、過去記事で貸出利率が以下の要素で決まっていることを紹介しました。

  1. 調達コスト
  2. 事務コスト
  3. 貸倒リスクの対価
  4. 利益

これらの各要素が金融機関によって異なる結果、貸出利率も金融機関によって異なるのですが、それを実際のデータから確認してみましょう。

分析の前提

比較分析の前提として以下の条件で実施したいと思います。

  • 金融機関といっても多数の金融機関があるため、ここでは関東地方(千葉県)の金融機関を中心に、分析対象としてメガバンク、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫を1先ずつ選定する。
  • メガバンク:みずほ銀行、地方銀行:千葉銀行、第二地方銀行:京葉銀行、信用金庫:千葉信用金庫 とする。
  • ソースデータは、上場企業においては「有価証券報告書」、非上場企業においては「ディスクロージャー誌(※)」とする。
  • 金融機関の貸出利率は各金融機関の2017年3月期決算書における「(P/L)貸出金利息÷(B/S)貸出金」で算出する。
  • ただし、メガバンクについては海外への事業展開をしているため、貸出利率から海外向け貸出を除くこととし、2017年3月期の有価証券報告書「第2事業の状況 (2)国内・海外別資金運用/調達の状況」より把握した「貸出金利息÷貸出金」で算出する。

※ディスクロージャー誌とは、銀行法・信用金庫法等の法律に基づいて、銀行・信用金庫等の金融機関が作成・公開を義務付けられた、業務及び財産の状況に関する説明資料をいいます。各金融機関のWebサイトで公開されている情報です。

金融機関別の貸出利率の算定

メガバンク:みずほ銀行

①(P/L)貸出金利息:4,825億円
②(B/S)貸出金  :50兆6,143億円
➂ ①÷②=0.95%

地方銀行:千葉銀行

①(P/L)貸出金利息:1,059億円
②(B/S)貸出金  :9兆3,053億円
➂ ①÷②=1.14%

第二地方銀行:京葉銀行

①(P/L)貸出金利息:382億円
②(B/S)貸出金  :3兆2,712億円
➂ ①÷②=1.17%

信用金庫:千葉信用金庫

①(P/L)貸出金利息:88億円
②(B/S)貸出金  :5,609億円
➂ ①÷②=1.57%

比較結果

メガバンクが一番低く、信用金庫が一番高い結果となった

貸出利率の算出結果は、以下のような結果となりました。

みずほ銀行0.95%<千葉銀行1.14%<京葉銀行1.17%<千葉信用金庫1.57%

千葉県の金融機関を前提にサンプルを選びましたが、メガバンクであるみずほ銀行は当然のことながら全国展開している銀行なので、千葉県という地域性を反映していないので参考として考えてください。

この結果からわかるのは「金融機関の規模が大きくなるほど貸出利率が小さい」という点です。

一見すると、みずほ銀行が一番低い金利で貸してくれるように思われますが、違います。

メガバンクの貸出利率が低い理由

冒頭に紹介した貸出利率の決まり方をもう一度確認してみましょう。貸出利率は以下の構成要素で決まっています。

  1. 調達コスト
  2. 事務コスト
  3. 貸倒リスクの対価
  4. 利益

みずほ銀行は認知度が高く全国に盤石な営業基盤があります。したがって、

  • 調達コストが低い(強力なキャンペーンを実施しなくとも預金が集まる)
  • 事務コストが低い(システム投資などを積極的に実施しており事務効率が良い)
  • 貸出先の貸倒リスクが低い(上場企業等の大企業にロットの大きい資金を出している)

このような想定ができます。したがって貸出利率が低くとも利益が確保できるため、貸出利率が低くなっています。

信用金庫の貸出利率が高い理由

同様に千葉信用金庫の貸出利率が高い理由を考えてみましょう。

千葉信用金庫に限らず、信用金庫は共同組織であり、出資者である会員に対してしか融資が行えません。また知名度や信用力がメガバンクや地方銀行に比べて相対的に低いという特徴があります。したがって、

  • 調達コストが高い(魅力的なキャンペーンを実施しないと預金が集まりにくい)
  • 事務コストが高い(狭い営業地域で少数店舗で運営しており事務効率が相対的に悪い)
  • 貸出先の貸倒リスクが高い(地域の中小企業が融資先となるため、貸し倒れるリスクの高い融資先の構成割合が高い)

このような想定ができます。したがって貸出利率が高くないと利益が確保できないため、貸出利率が高くなっています。

まとめ

みずほ銀行と千葉信用金庫を例に貸出利率が低い(高い)理由を考察しましたが、千葉銀行や京葉銀行についても同様の理由で貸出利率の高低が説明できると思います。

注意点としては、今回の分析は金融機関の決算書から全体の貸出利率を分析しているということです。

つまり、千葉県のA企業が借入を実施しようとした場合に、「みずほ銀行なら低く借りられる」、「千葉信用金庫なら高い利率でしか借りられない」ということを意味するものではありません。なぜならば、銀行によってA起業の貸倒リスクの評価結果が異なるからです。

もしかするとメガバンクでは貸倒リスクが高いと評価し、そもそも融資を実施してくれないかもしれませんし、信用金庫では事業内容を深く理解してくれて貸倒リスクを低いと評価して低い利率で融資してくれるかもしれないからです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。